日本に在留する外国人の中には、将来、日本に帰化したいと思っている方もいらっしゃると思います。帰化とは、日本国籍を取得することです。日本では、二重国籍を認めていないので、日本に帰化するということは、母国の国籍を喪失するということでもあります。
ここでは、帰化について、その要件や手続き等を説明します。
目次
- 1.帰化とは
- 2.帰化申請要件
- 2.1 普通帰化の7つの要件
- 2.2 簡易帰化の要件
- 2.2.1 簡易帰化の9つのケース
- (1)日本国民であつた者の子(養子を除く。)で引き続き3年以上日本に住所又は居所を有するもの
- (2)日本で生まれた者で引き続き三年以上日本に住所若しくは居所を有し、又はその父若しくは母(養父母を除く。)が日本で生まれたもの
- (3)引き続き十年以上日本に居所を有する者
- (4)日本国民の配偶者たる外国人で引き続き3年以上日本に住所又は居所を有し、かつ、現に日本に住所を有するもの
- (5)日本国民の配偶者たる外国人で婚姻の日から3年を経過し、かつ、引き続き1年以上日本に住所を有するもの
- (6)日本国民の子(養子を除く。)で日本に住所を有するもの
- (7)日本国民の養子で引き続き1年以上日本に住所を有し、かつ、縁組の時本国法により未成年であつたもの
- (8)日本の国籍を失つた者(日本に帰化した後日本の国籍を失つた者を除く。)で日本に住所を有するもの
- (9)日本で生まれ、かつ、出生の時から国籍を有しない者でその時から引き続き3年以上日本に住所を有するもの
- 2.2.1 簡易帰化の9つのケース
- 3.帰化申請の手続き・期間
- 4.まとめ
1.帰化とは
帰化とは、日本国籍を取得することです。帰化すると日本人と同じ権利と義務が発生します。日本では、二重国籍を認めていないので、日本に帰化するということは、日本国籍を取得して本国の国籍を喪失するするということでもあります。
日本国籍を取得したい理由は、人それぞれだとは思います。帰化する、日本国民になれるということは、在留資格の制約を気にしなくて良い、日本のパスポートを取得できるなどのメリットがあります。デメリットは、母国の国籍がなくなるので、母国に戻るときには面倒であることなどでしょうか。
2.帰化申請要件
2.1 普通帰化の7つの要件
2.1.1 住居要件
「引き続き5年以上日本に住居を有すること。」(国籍法5条1項1号)
「引き続き」とは、継続してという意味で、日本に継続して5年以上住居を有して住んでいることが必要です。海外出張や海外旅行で短期間出国することは構わないですが、1度の出国期間が3カ月を超える場合は、「引き続き」が途切れるリスクが非常に高いと考えてください。「引き続き」が途切れるとそれまでの日本での居住歴はなくなり、ゼロからカウントしなおしとなります。また、1回の出国は3カ月より短くても、1年間に短期の出国を繰り返し、およその目安そして合計150日以上程度日本を出国すると、これも「引き続き」とみなされなくなるリスクが非常に高いと考えられます。
また、「引き続き5年以上」の期間には、就職をして実際に仕事をしている期間が3年以上必要です。「家族滞在」や「留学」などの在留資格ではなく、「技術・人文知識・国際業務」や「技能」などの就労系の在留資格を取って原則として満3年以上働いていることが必要です。就労系の在留資格が取得できて満3年以上働いていれば、正社員でなくても、契約社員や派遣社員でも大丈夫です。就労期間3年以上のうちの転職回数も問題となりませんが、無職の期間があると就労期間が途切れたことになります。在留資格が途切れていないこと(当然ですがオーバーステイがないこと)が必要です。
「引き続き10年以上」日本に住居を有して住んでいる方は、就労経験が3年なくても、1年以上あれば大丈夫、住居要件を満たします。たとえば留学生として9年、就労系の在留資格で1年、合計で引き続き10年日本に住居を有して住んでいる方は大丈夫です。
2.1.2 能力要件
「十八歳以上で本国法によつて行為能力を有すること。」(国籍法5条1項2号)
2.1.3 素行要件
「素行が善良であること。」(国籍法5条1項3号)
これは、きちんと税金を払っていること、きちんと年金を払っていること、交通違反がないこと、前科がないこと、です。
(1)税金
所得税・住民税をきちんと払っていることが必要です。特に、会社員の方で住民税を給料から天引きされていない方は、要注意ですが、自分で申告して納めていれば大丈夫です。結婚している方は配偶者分の納税証明書も必要になります。扶養控除できる上限を超えた収入のある配偶者を扶養に入れている場合などは、本来払うべき税金を払っていないことになるので、配偶者を扶養から外すための修正申告をして本来払うべき税金を払えば大丈夫です。支払う税金を少なくするために本国の親兄弟姉妹等を扶養に入れている場合には、本国の親に送金しているという証拠を提出するか、親兄弟姉妹等を扶養から外すための修正申告をして本来払うべき税金を払えば大丈夫です。
法人経営者や個人事業主の方は、法人としての税金と、個人事業としての税金もきちんと払っていることが必要です。具体的には、法人税や個人事業税が該当します。
(2)年金
年金をきちんと払っていることが必要です。会社員の方で勤務する会社で厚生年金に加入していて、給料から厚生年金保険料が天引きされている方は問題ありません。厚生年金に加入していない会社に勤務している方は、厚生年金保険料を払っていないことになりますので、自分で国民年金保険料を支払うことが必要です。厚生年金保険料も国民年金保険料も払っていない方は、国民年金保険料をとりあえず直近1年分支払う必要があります。直近1年分の国民年金保険料を支払ってその領収書を提出することで、年金の要件を満たすことができます。国民年金の支払いについては、最寄りの年金事務所で納付書をもらえます。
法人経営者の方は、法人として厚生年金保険に加入しなければなりません。法人として厚生年金保険を適用し、従業員を厚生年金に加入する必要があります。もちろん、年金保険料を支払っていることも要件です。
個人事業主の方は、基本的に厚生年金に加入する義務がありませんので国民年金ですが、従業員を5人以上雇用している場合は、厚生年金に加入する義務があります。
今まで厚生年金保険に加入していなかった法人経営者の方は、今から厚生年金に加入し、厚生年金保険料の支払いを開始するのと同時に、加入していなかった直近1年分の国民年金保険料を支払うことで足ります。
(3)交通違反
交通違反がないことが必要です。過去5年間の交通違反経歴を審査されることになります。目安としては、過去5年間で、軽微な違反5回以内だったら特に問題はないとされます。軽微な違反というのは、たとえば、駐車禁止や携帯電話使用などがあたります。飲酒運転などといった重い違反は、相当期間経過しないと帰化が認められません。車を運転しない方は、交通違反も起こさないでしょうから、問題ありません。
2.1.4 生計要件
「自己又は生計を一にする配偶者その他の親族の資産又は技能によつて生計を営むことができること。」(国籍法5条1項4号)
これは、文字通り、生計を営むことができるかという要件です。一人暮らしの方は自分だけで良いですが、配偶者や子供がいる方は、家族の分も含めた収入で、十分生活していけるかということです。貯金よりも、安定的な職業に就いて毎月安定的な収入があることのほうが重要です。会社員の方の給料でも法人経営者の方の役員報酬でも、目安としては、月18万円か20万円ぐらいあれば大丈夫です。現在無職の方は、安定的な収入のある仕事を見つけてから帰化申請を考えるようにしましょう。
住宅ローン,自動車ローン,クレジットカードなどで借り入れをしていたとしても、返済を滞りなく行っていて、かつ、安定的に生活できていれば問題ありません。自己破産をしたことがある方は、復権してから7年経過していれば生計要件は満たします。
2.1.5 喪失要件
「国籍を有せず、又は日本の国籍の取得によつてその国籍を失うべきこと。」(国籍法5条1項5号)
これは、日本は二重国籍を認めていないための要件です。国によっては、男性に兵役義務があり、兵役を終わらなければ母国の国籍を失うことができない場合もあるようですので、男性で兵役義務のある国の出身の方は、母国で事前に日本の国籍の取得によって母国の国籍を失うことができるか確認をすることが必要です。
2.1.6 思想要件
「日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、若しくは主張し、又はこれを企て、若しくは主張する政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入したことがないこと。」(国籍法5条1項6号)
2.1.7 日本語能力要件
帰化申請では、日本語能力も求められています。申請・面談時の審査官との日本語での会話の中で、審査官に日本語能力に不安を持たれた場合には、日本語能力テストが行われる場合があります。目安としては、小学校3年生程度の日本語能力です。
2.2 簡易帰化の要件
簡易帰化は、在日韓国人・朝鮮人(特別永住者)の方や、日本人と結婚している外国人の方が当てはまります。「簡易」という言葉が使われていますが、帰化の要件のハードルが下がっているという意味であり、書類上の手続きは簡易になっているとは言えません。
以下に説明する簡易帰化の9つのケースでは、上記の5年の住居要件(原則3年以上の就労要件を含む)が緩和されます。(4)と(5)のケースではさらに能力要件が不要になります。(6)~(9)のケースでは、さらに生計要件が不要になります。他の要件は必要です。
2.2.1 簡易帰化の9つのケース
(1)日本国民であつた者の子(養子を除く。)で引き続き3年以上日本に住所又は居所を有するもの
国籍法6条1号の要件です。このケースに当てはまるのは、もともと日本国籍を有していた両親が外国に帰化して自分も外国籍になっている場合です。
(2)日本で生まれた者で引き続き三年以上日本に住所若しくは居所を有し、又はその父若しくは母(養父母を除く。)が日本で生まれたもの
国籍法6条2号の要件です。日本で生まれた在日韓国人・朝鮮人の方の多くがこのケースに当てはまります。
(3)引き続き十年以上日本に居所を有する者
国籍法6条3号の要件です。在日韓国人・朝鮮人の方の多くがこのケースに当てはまります。また、一般の外国人の方でも、10年以上日本に住んでいる方は、1年以上就労経験があれば帰化され得るのはこの要件に当てはまります。
(4)日本国民の配偶者たる外国人で引き続き3年以上日本に住所又は居所を有し、かつ、現に日本に住所を有するもの
国籍法7条前段の要件です。日本人と結婚している外国人がこのケースに当てはまります。日本に引き続き3年以上住んでいる場合、日本人と結婚した時点で帰化の居住要件を満たせます。能力要件は不要ですので、18歳未満でも大丈夫です。この要件を満たし、素行要件,生計要件,喪失要件,思想要件,日本語能力要件を満たせば帰化申請できます。
(5)日本国民の配偶者たる外国人で婚姻の日から3年を経過し、かつ、引き続き1年以上日本に住所を有するもの
国籍法7条後段の要件です。(4)と同じく、日本人と結婚している外国人がこのケースに当てはまります。このケースは、外国で3年以上結婚生活を送っていたが、その後来日し1年以上日本に住んでいる場合です。能力要件は不要ですので、18歳未満でも大丈夫です。この要件を満たし、素行要件,生計要件,喪失要件,思想要件,日本語能力要件を満たせば帰化申請できます。
(6)日本国民の子(養子を除く。)で日本に住所を有するもの
国籍法8条1号の要件です。このケースに当てはまるのは、両親だけ先に帰化して日本国籍を取り、子どもが後で帰化する場合や、日本人の子であるが日本国籍を選ばなかった人が、後に帰化する場合です。この要件を満たし、素行要件,喪失要件,思想要件,日本語能力要件を満たせば帰化申請できます。
(7)日本国民の養子で引き続き1年以上日本に住所を有し、かつ、縁組の時本国法により未成年であつたもの
国籍法8条2号の要件です。このケースに当てはまるのは、未成年の時に親の再婚などにより連れ子として日本に来た外国籍の方で、来日時に義理の父(母)と養子縁組をしたような場合です。この要件を満たし、素行要件,喪失要件,思想要件,日本語能力要件を満たせば帰化申請できます。
(8)日本の国籍を失つた者(日本に帰化した後日本の国籍を失つた者を除く。)で日本に住所を有するもの
国籍法8条3号の要件です。このケースに当てはまるのは、外国籍になった日本人が、再度日本国籍に戻る場合です。この要件を満たし、素行要件,喪失要件,思想要件,日本語能力要件を満たせば帰化申請できます。
(9)日本で生まれ、かつ、出生の時から国籍を有しない者でその時から引き続き3年以上日本に住所を有するもの
国籍法8条4号の要件です。このケースに当てはまる方は、素行要件,喪失要件,思想要件,日本語能力要件を満たせば帰化申請できます。
3.帰化申請の手続き・期間
帰化申請は本人申請が原則です。出入国在留管理庁ではなく、管轄の法務局に、本人が帰化申請手続きに行きます。帰化申請の前に、管轄の法務局に、最初の相談予約をとって相談に行くのが原則です。相談予約は混んでいるので1カ月とかそれ以上先になることもあります。相談予約も含めて帰化申請が許可されるまでには、1年から1年半ぐらいかかるとみてください。
手続の流れはおおむね以下の通りです。
(1)管轄の法務局に相談予約
(2)法務局で相談
相談したうえで、帰化申請できると担当者に判断されたら、帰化申請に必要な書類を教えてもらえます。
(3)書類収集と再度の法務局での相談
収集すべき書類の一覧に従って、書類を集めていきます。収集すべき書類には、日本国内の役所等で集める書類と、在日大使館・領事館等で集める書類、本国で集める書類などがあります。本国で集める書類は、家族が本国に居て書類収集に協力してもらえる場合には、その家族に手伝ってもらって集めるのが良いでしょう。
在日韓国人等の方は、韓国語をしゃべれない方も多いと思います。本国に行かなくても韓国領事館で書類を集められるので大丈夫です。
(4)申請書作成と法務局での最終確認
(5)申請・受理
(6)面接日時の連絡と面接
申請書類の受理から約2~3カ月後に、法務局から面接日時調整の電話連絡があります。その面接日時には、法務局へ出向き、面接を行います。面接は、基本的には、申請書の内容確認で、帰化の動機なども聞かれます。結婚している方は配偶者も来るように指示されることが多いようです。この面接で、日本語能力も判断されます。
(7)審査
(8)許可
帰化の許可は官報に掲載されます。申請受理から1年程度で結果がでます。
・帰化申請における行政書士の役割
帰化申請では、本人申請が原則ですが、行政書士は、管轄の法務局への相談や申請に同行することは可能です。申請書類の作成もお手伝いすることが可能です。ただし、帰化申請では、本人が手書きしなければならない書類もありますので、それは外国人本人に書いていただく必要があります。
申請に必要な書類の中には、平日に役所に行かないと集められないものもあります。郵送で集められるものもあります。必要書類がなかなか集めきれずに、住民票などの有効期限のある書類の有効期限が切れてしまうということも多いです。
帰化申請に関し、心配なことがあれば、遠慮なく、専門の行政書士に相談されることをお勧めします。行政書士に相談する場合は、法務局へ行く回数は減りますし、書類収集や申請書作成も手間が省けます。何より、帰化申請に対する不安が減ると思います。
4.まとめ
上記では、必要書類の一覧を書いていませんが、それは、人によって、状況によって、さまざまですし、ここでは書ききれないからです。帰化申請は、集める書類や作成する書類がとても多く、細かい決まり事もあるので、本人がすべてやるのはとても大変ですし、不安なことも多いと思います。
帰化申請を扱っている専門の行政書士に相談されることをお勧めします。