日本に就労して厚生年金を支払っていた外国人が帰国した場合、日本で支払っていた厚生年金はどうなるのか気になる方も多いと思います。ここでは、厚生年金の加入期間が6か月以上あって、すでに母国に帰国して2年未満であるなど、一定の要件を満たす外国人が帰国した場合に認められる厚生年金の脱退一時金について説明します。
外国人の年金に関する脱退一時金
外国人の年金脱退一時金制度とは
脱退一時金制度とは、厚生年金の被保険者期間が6か月以上であり、障害手当金を含む年金の受給資格を満たしていない日本国籍を有しない人(国民年金の被保険者ではない人)が、日本に住所を有しなくなった日から2年以内に請求を行うことで厚生年金保険から支給される一時金の制度のことです。
言い換えると、次の場合のいずれか一つでも当てはまる場合には脱退一時金を請求することができません。
・国民年金の被保険者となっている
・日本国内にまだ住所がある
・障害基礎年金(障害厚生年金)などの年金を受けたことがある
・最後に国民年金の資格を喪失した日から2年以上経過している
・老齢年金の受給資格期間(厚生年金保険加入期間等を合算して10年間)を満たしている
脱退一時金を請求できる外国人の方は、日本出国後に日本年金機構に請求することで、給与・賞与から引き落とされた厚生年金保険料を5年分を上限に払い戻すことができ、保険料の掛け捨てを防ぐことができます。
ビザ(在留資格)の更新や変更ができる方で、5年を得て日本で就労を考えている場合、脱退一時金を受け取らず、10年間年金に加入し支払い続ければ、老齢年金受給資格を得ることができます。将来、本国へ帰国した場合や日本以外の国へ移住したとしても、日本からの老齢年金を受け取ることもできます。
※脱退一時金のご質問は、日本年金機構へお問い合わせください。
脱退一時金の支給要件
脱退一時金が支給されるためには、次の要件を全て満たす必要があります。
厚生年金の場合
・厚生年金被保険期間が6か月以上であること(会社等に勤務して厚生年金保険に6か月以上加入していた人)
・受給者が日本国籍を有していないこと
・すでに年金受給権を有していない(10年以上加入していない)もしくは障害手当金を受給していないこと
・日本に住所を有していないこと(原則として日本を出国した後に請求)
国民年金の場合
・合計した月数が6か月以上あること(※)
・受給者が日本国籍を有していないこと
・すでに年金受給権を有していない(10年以上加入していない)もしくは障害手当金を受給していないこと
・日本に住所を有していないこと(原則として日本を出国した後に請求)
(※)
・国民年金の1号被保険者としての保険料納付期間の月数
・保険料1/4免除期間の月数の3/4に相当する月数
・保険料半額免除期間の月数の1/2に相当する月数
・保険料3/4免除期間の月数の1/4に相当する月数
脱退一時金請求の手続き
脱退一時金の請求手続きは、請求書を社会保険事務所などから帰国前に入手しておきます。この「脱退一時金請求書」よりダウンロードできますのでご利用ください。そして出国後2年以内(正確には、転出届を届け出てから2年以内)に日本年金機構に対して請求書と必要書類を送付することにより行います。電子申請も可能です。
また、転出届を市区町村に提出することで、帰国前であっても住民票転出(予定)日以降であれば提出手続きが可能です。この場合は、添付書類として、国外へ転出予定の者について記載のある住民票(写し)と、住民票の除票等の転出届を提出したことが確認できる者が必要となります。
請求手続き完了後に、各国の通貨に換算されて、指定した金融機関の口座に送金されます。
提出先: 日本年金機構本部または各共済組合等(加入していた制度およびその期間により提出先が異なります。脱退一時金請求書及び添付書類を提出してください。)
提出方法: 郵送・電視申請 (旅行など就労以外の目的で来日した場合には、年金事務所または街角の年金相談センターの窓口での提出が可能です。
提出時期: 外国人が日本から転出して2年以内
添付書類:
・パスポートの写し(氏名、生年月日、国籍、署名、在留資格が確認できるページ)
・日本国内に住所を有しなくなったことを確認できる書類(住民票の除票の写し等)
・銀行名、支店名、支店の所在地、口座番号、及び請求者本人の口座名義であることが確認できる書類(銀行が発行した証明書等。または、銀行の口座証明印の欄に銀行の署名を受けてください。)
なお、帰国前に日本国内から請求書を提出する場合は、請求書を住民票の転出(予定)日以降に日本年金機構へ提出してください。(脱退一時金の受給要件とすて、日本年金機構が請求書を受理した日に日本に住所を有していないことが必要です。)郵送等で手続きをする場合には請求書が転出(予定)日以降に日本年金機構に到達するように送付してください。
脱退一時金支給額
脱退一時金の金額は、被保険者であった期間に応じて、「平均標準報酬額x支給率」で算出されます。正確には、他の要素も加わるので少し複雑な算出となりますが、概算を知りたい外国人の方には「年収の約9%が5年分を上限として支給されます」とお伝えください。
たとえば、ベトナム人の方を例に挙げると、日本で年収300万円で5年間働いたと仮定した場合、大まかな計算で300万円x9%x5年=135万円の支給となります。正確な数字ではなく、税金も20%以上引かれますので、100万円前後、と少し控えめにお伝えする方が良いかもしれません。
詳細は、日本年金機構へお問い合わせください。
アメリカやドイツ、韓国などは、日本と社会保障協定を結んでいるので、日本での年金加入期間が本国での年金加入期間と通算され、日本で支払った厚生年金保険料が掛け捨てにはなりません。反対に社会保障協定を結んでいないアジアの国、たとえばタイ・ベトナム・インドネシアなどの外国人は、脱退一時金を請求することが多いようです。
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